主著論文がGeophysical Research Lettersに掲載されました

11本目の主著論文 “Characteristics of Low-Frequency Pulses Associated With Downward Terrestrial Gamma-Ray Flashes” がアメリカ地球物理学連合の速報誌 Geophysical Research Letters に掲載されました。
https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1029/2021GL097348

新潟県柏崎市および石川県金沢市を中心としたGROWTH実験では、雷雲から数分単位で放射されるガンマ線グローに加え、雷放電そのものに同期する瞬間的な地球ガンマ線フラッシュ (TGF) という2つの高エネルギー大気現象を検出しています。

本論文では2016年10月から2020年3月までに新潟県柏崎市および石川県金沢市で観測された合計7例のTGFについて、ガンマ線の観測データと富山県でリモート観測した長波帯電波の観測データを比較しました。その結果、7例すべての事象でTGFは雷放電の開始から600マイクロ秒以内に発生していることがわかりました。すなわち雷放電の極初期でTGFが発生していることがわかりましたが、一方で必ずTGFの前に電波パルスが観測されており、ガンマ線が雷放電に先行しているという事象はありませんでした。

また7例の雷放電は100 kA以上の非常に強い電流を伴う放電と、数十kA程度の放電の2種類に分類できることもわかりました。それぞれの種別でガンマ線のパルスパターンの違いや電波パルスとガンマ線ぱするのタイミングの違いがあり、TGFのメカニズムに多様性があることも示されました。

TGFは主に宇宙軌道上の衛星から観測され、対応する雷放電が地上の電波アンテナで観測されていますが、今回の事例ではガンマ線・電波ともに地上から観測することができています。衛星の時刻同期の精度や、TGFの発生点から衛星・電波アンテナまで距離があることから、電波とガンマ線を比較する際には一般的に時刻精度が問題となりますが、今回はガンマ線も電波も地上で観測できており、どちらもGPS信号で時刻同期がとれていることから、両者を時間的に精密に比較することで、上記の結果を得ることができました。

北陸冬季雷で発生したTGFについては、これまでその副産物である光核反応に焦点を当て、榎戸氏を筆頭とするNature論文や和田の博士論文になるなどの成果が出てきましたが、いよいよTGFそのものが重要な研究対象となってきました。一方でガンマ線の検出器はTGFのフラックスで飽和しており、より詳細な観測のためにはTGF;に特化した検出器が必要です。今後はTGFを飽和させずに検出できる計測機器の開発も行っていきたいと考えています。